1984年10月ニューヨークに赴任した。初めてのアメリカ、初めての海外生活である。日本で学んだ
英語と全く異なる言い回し、言葉の響き。耳が慣れるまで半年かかった。
だいぶ話せるようになって、上司がある客先のアメリカ人社長に会いに行ってこいという。その社長は会うなりこう言った。「What can I do for you, Rich?」私はあなたのために何ができるか?直訳すればそうなる。この言葉は、サービス業でお客様に話かける常套句であることは後で知ったが、
ビジネスの現場では「やって欲しい事を何でも率直に言ってくれ」と文字通りの意味にも使う。
しかし、僕には衝撃だった。それまで「どういうご用件ですか?」と聞かれる世界に生きてきた。しかし、目の前の大男は、息子のような年齢の日本人の若造に対し、自分はどのようにして役に立てるかと真摯に聞いている。僕はドキドキした。そんなあつかましく言えるものか・・・
ついつい遠慮して本音まで言い切れない。すると「あなたが私にして欲しいのは・・・あなたの商品を売り込む機会を与えてくれという事ですね?」ときた。参った。
相手にして欲しいこと、自分の願望、夢、それをストレートに話し、相手のそれも聞く。その交換を通して利害の一致点を探してゆく、それがアメリカのビジネスなんだと僕は学んだ。
それにしてもその言葉の響きが僕の頭にこびりついた。
What can I do for you?
なんていい言葉だろう・・・。
でも、僕にはアメリカの人々に、何一つできることはない。日本の文化・習慣を教えてあげることぐらいだ。いや、待てよ。
ゴルフだって、書道だって、教えられるぞ。日本の歴史だって、
中国の歴史だって・・・。そうだ、ああいう風に話せる人間になりたい。いや、なるんだ。絶対。
僕は会社に戻った。掃除夫のJimが目に入った。よーしっ。
「Jim, what can I do for you?」・・・聞いてみた。
どんな答えが返ってくるか・・・Jimの言葉を待った。
「Rich, the only thing you can do for me is to step out here.
I wanna do my job, cleaning!」
僕がJimにできることって・・・掃除の邪魔をしないこと。
そこを退くことだった。残念!
しょんぼりした僕の
背中に、Jimが何か言い出した。
「One more thing, Rich・・・
You hit a home-run in the next
game!」
僕は思わずJimに抱きついた。
ニックネーム りっち(BBキッズネットワーク主宰者) at 18:52|
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